クロガネ・ジェネシス

第39話 象と蟻
第40話 手負いの獣
第41話 窮鼠猫を噛む
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第ニ章 アルテノス蹂 躙じゅうりん

第40話

手負いの獣





 アルトネールとシーディスの大きさの差はまさに象と蟻と呼ぶに相応しい。

 蟻が象に敵うことはあり得ない。

 アルトネールもそれはわかっている。しかし、だからといって引き下がることはできない。

 だからこそ、アルトネールは戦いを挑んでいた。

 アルトネールがシーディスに勝利する鍵《キー》は、いかに効率よく魔術を叩き込んでいくかだ。

 そして、それを実現するためにはそれ相応の魔力が必要となる。問題は魔力《それ》がシーディス撃破に足りるかどうかだ。

 アルトネールは、足場を生成する魔術、ライトニング・ロードを使って、建物から建物へと移動を繰り返しながら、ひたすらに魔術を放つ。

「ドラコニス・ボルト!!」

 人間が思いつく攻撃系魔術の中でもっとも速く、もっとも破壊力の高い雷系魔術。

 それを、自らの魔力をありったけ注ぎ込み、放つ。

 雷鳴が轟《とどろ》く。空に光が瞬く。

 そして、シーディスの頭上から雷の衝撃が襲いかかる。

『ガアアアアアアアアア!!』

 シーディスは悲鳴にも絶叫にも似た咆哮をあげる。

 雷の衝撃は、頭皮を抉《えぐ》り、焼き、血飛沫を大地に降り注がせる。

『オォノレ、アルトネェルゥゥゥ!!』

 シーディスが再び巨大なレーザーブレスを放つ。

 渾身の力で放たれたレーザーブレスは、複数の建物を薙ぎ払い、瓦礫《がれき》の山を築く。

「ううう……!」

 しかし、デタラメに放たれたレーザーブレスは、アルトネールの命を奪うには至らない。

 そもそもシーディスにアルトネールは見えていないのだ。

 象が蟻に勝る点は、小さすぎて相手から認識されずづらいこと。

 これは小さいが故の利点だ。

 自らにレーザーブレスが直撃しなかったことで、アルトネールは肝を冷やす。

「いつやられることやら……」

 呟き、アルトネールは次の一手を考える。

 ドラコニス・ボルトは人間が考えた魔術の中でももっとも攻撃能力が高い魔術だ。これ以上の威力を持つ魔術など、およそ存在しない。

 力で沈めることが難しいのは元より承知の上。効率よくダメージを与える方法を考えなければ、ジリ貧になる。

 そう考えていると、シーディスが動き出した。

 自らよりさほど大きくない建物を次から次へと破壊していく。

「ライトニング・ロード!」

 足場生成の魔術を発動し、そこから別の建物に移動する。

 アルトネールはシーディスの進行方向の真横に位置している。彼女の目に、シーディスの翼が目に入った。

 その翼は前回の戦いで穴が空いている。

 それを見て、アルトネールは再びライトニング・ロードを発動。シーディスの背中に回り込む。

 そして、シーディスの翼全体に対し魔術を発動した。

「フロスト・カーテン!!」

 そう唱えた直後。

 シーディスの片翼が一瞬で凍り付いた。

『ウオオオオオオオオオオオオ!?』

 何が起きたのか理解できず、シーディスは突如重くなった翼を支えることができずに膝を突き、両手を地面について全身を支える。

『オ、オォノレ……ニンゲン!』

 この状況は、アルトネールにとって圧倒的に優位に見えた。

 片方だけとはいえ、翼が凍り付いたことで、移動を制限し、ほとんど動けない状態に持っていくことができたからだ。

 しかし……。

「ハァ……ハァ……ウッ……!」

 アルトネールは地面に降り立ち、肩で息をしている。

 頭がクラクラする。全身から汗が吹き出る。

 魔力切れだ。

 シーディスの翼を片翼とはいえ、完全に凍り付かせるほどの魔力だ。その消費量は、並の人間なら即魔力切れで気絶するレベルだ。

 むしろ、この魔術を発動するまでの間、複数の魔術を発動していて、なおかつこれだけのレベルの魔術を放てたことを誉めるべきだろう。

 アルトネールの魔力量は、並の魔術師をはるかに上回っている。

 しかし、それでもこれが限界だ。

 シーディスを打倒するには、1人の力では無理があったのだ。

「私1人では……どうにもならない……。せめて、もう一発でも……」

 凍り付いた翼を打ち砕けば、シーディスの出血量はかなりの量となり、大きなダメージを与えることができたことだろう。

 とにかく、このまま留まっているのはまずい。

 逃走か、戦闘か。これ以上の戦闘を継続するには魔力を回復しなければならない。

 しかし、魔力は体力と同じようなもので、回復するにはそれなりに休息を必要とする。

 魔力切れ直後の彼女に、すぐさま魔力を回復させる術はない。

「姉さん!」

 その時だった。聞き慣れた声が聞こえた。

 アルトネールはその声が聞こえた方に振り向いた。

「アマロちゃん……」

「姉さん……! 無事でよかったわ! 立てる?」

 アマロリットは肩で息をしながら膝を突いているアルトネールに肩を貸す。

「あんなのに、1人で戦いを挑むなんて……」

「どの道、誰かがやらねばならないこと……私が戦わないわけにはいかないでしょ?」

「言ってることはわかるわ。だけど、もう1人で戦う必要はないわ。選手交代よ」

「選手交代? 一体誰と……?」

「もち! あの子達よ!」



 零児達はシーディス打倒を目指してセルガーナ、シェヴァを駆り、空を待っていた。

 シェヴァの背に乗っているのは、零児、アーネスカ、シャロンの3人。

 零児は目を丸くした。

 アルトネール奪還の時もそれなりに巨大だったことはわかっていたが、こうして地面に降り立った姿を見れば、なおさら大きく見える。

「こうして見上げてみると、改めてコイツのでかさがわかるな……」

 うんざりするほどの巨体。その凍り付いた翼の重みに耐えかねて、ひざまずいている。

「あの翼……アルト姉さんの」

 巨大なシーディスの翼を凍り付かせるだけの魔術。並大抵の魔力でこれほどの魔術は放てない。

「あの翼はアルトネールさんの魔術で凍り付いたと見て、間違いないな。なんて魔力だ……」

 零児も感嘆する。

 魔術をかじった人間ならばこの光景を生み出したアルトネールの凄まじさがわかる。

「けど、いくら姉さんでも、これだけのことをすれば魔力切れになってるはず……」

「違いないな……」

「今がチャンスね! あの翼を一斉に攻撃し、破壊する。2人とも、力を貸してちょうだい!」

「そのつもりだ」

「……(コクン)」

 アーネスカが銃を構える。その銃口はシーディスの翼に向けられていた。

 零児も右手を突き出し、魔力を集中する。

 シャロンも同様に右手をつきだした。

「行くわよ!」

 アーネスカを筆頭に、2人の自らの魔術を発動した。

「エクスプロージョン!」

 アーネスカの銃口が火を噴く。

 銃弾はシーディスの凍り付いた翼に着弾し、同時に爆発を起こす。

 シャロンはそれに若干遅れて、光輝く無数の錐《きり》を生み出し、シーディスの翼目掛けて放つ。

 狙いはアーネスカが着弾させた銃弾とほぼ同じ位置。

 打ち砕かれた氷の下にある、シーディスの翼の皮膚。

 光の錐はそこに突き刺さった。

『ウウオオオオオオオオオ!?』

 明確な攻撃。しかし、シーディスには自分の翼に何が起こっているのかわからず、ただ痛みに耐えている。

「行くぜ!」

 零児はシェヴァの背中から飛び降りた。

「零児!?」

 アーネスカは零児の行動の意図がわからず困惑する。

 零児は空中で無限投影を発動。自らの手から今まで生み出したことのない巨大な刀剣を生み出した。

 人間が持つことを想定して作られた、両手剣、トゥ・ハンド・ソードをはるかにしのぐ巨大さだ。

 それは人間が持つものとは到底思えないほど大きく、まるで巨人が握る刃の用に大きかった。

 握ることを想定しない巨大な刃。そのため柄が存在せず、刀身しか存在しない。それがまっすぐにシーディスの凍り付いた翼目掛けて落ちていく。

 巨大な刃はシーディスの翼をたやすく貫いた。

 そして……。

「散!」

 その叫びとともに刃は爆発を起こした。

 響き渡るはシーディスの絶叫。そして爆音と竜操の笛の音。

 落下しゆく零児の体その体を、シェヴァの背中がとらえた。

 最初から零児はそうするつもりだったようだ。

「無茶する……」

 アーネスカは苦笑いを浮かべる。

「俺が無茶すんのはいつものことだろ?」

「違いないわね……」

 シャロンもホッと胸をなで下ろす。

「でも、戦闘不能にするには、まだ足りないみたい……」

 零児はシェヴァに指示し、再び高度を上げる。

 今の攻撃の影響で、爆煙と白い霧が入り交じり、視界が若干悪くなっている。

『ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ……』

 シーディスのうめき声。同時にボタボタと液体が滴り落ちる音がする。

『オレノ……ツバサガ……』

 血の海と化す地面。ゆっくりと起きあがるシーディス。そして、己に攻撃した憎き存在を、左右に首を振りながら探す。

『ガアアアアアアアアアアア!!』

 次の瞬間、爆煙の中から光る何かが発射された。

 それは爆煙を裂き、はるか遠くの地面をえぐりとばす。

 零児は軽く舌打ちした。

「レーザーブレス……!」

 それは一発では終わらなかった。

 幾度も、幾度もそのレーザーブレスは発射された。

 そのたびにどこかの地面が吹き飛び、海を引き裂き、建物を破壊する。

『ヴヴヴヴヴヴウガアアアアアア!!』

 そして、両腕を振るい出す。

 ただ、闇雲に振り回すだけの腕。しかし、巨体から放たれるその腕は、十分に恐ろしいものだった。

 万が一、一発でも直撃すれば、彼らは大きく吹っ飛ばされることになる。そうなれば致命的だ。

「零児! 距離をとって!」

「わかってる!」

 零児はシェヴァに指示を出し、可能な限りシーディスから距離をとる。

 徐々に爆煙が晴れていく。

 そして、シーディスの目にシェヴァの姿が映った。

「キサマラァアアア!!」

 シーディスは瞬時に怒りの矛先をシェヴァに向ける。

 そして、そのままその両手を伸ばしてきた。

「レイジ! 速く!」

「捕まるわ!」

「シェヴァ! 急降下ー!」

『グオオオオオオオオオオオオオオオウ!!』

 零児の意志に呼応して、シェヴァその高度を一瞬にして落とす。

 結果、シーディスの手は空振りした。間髪入れず、今度はレーザーブレスを放ってきた。

 その動作を見て、シャロンとアーネスカが叫んだ。

『レイジ!!』

「ウオオオオ!!」

 高速で急降下するシェヴァ。その手綱を零児は左に引っ張った。

 シェヴァは急激に進路を変更する。

 石造りでできた建物。その裏側に回り込む形となり、シーディスから見れば完全に死角となる

『ムダダ!!』

 しかし、シーディスは意に介することなく、レーザーブレスを放った。死角になった建物ごとシェヴァを葬り去るつもりなのだ。

 レーザーブレスはすぐさま発射された。それは瞬時に石でできた建物を破壊し瓦礫の山へと変える。

「くそ!」

 死角を作った程度ではシーディスの攻撃を交わしきることはできない。シェヴァはその衝撃を受けて、大きく高度を落とす。

 それは落下、と呼ぶべき軌道を描き、地面に向かっていく。

「シェヴァアアアアアアア!!」

 零児は叫び、手綱を強く引っ張る。

 シェヴァはそれに答え、どうにか体制を建て直し、両足を地面に付き、直撃を回避した。しかし、それと同時にシェヴァの息は絶え絶えになっていた。

「シェヴァ……」

『グウウウウウウ……』

 アーネスカとシャロンもシェヴァの背中から降りる。

「外傷はないが、衝撃によるダメージは小さくないみたいだな……。それにシェヴァ自身、体力を消耗しすぎている。しばらく飛べそうにないな……」

『ガアアアアアアアアア!!』

 3人はシーディスの声に反応し、見上げる。

「どうするの!?」

「地上では不利……!」

「……」

 零児はほんの数秒思考し、即座に結論を出した。

「俺が出る」

「出てどうするの?」

 アーネスカは問う。シェヴァが飛べない以上、巨体を誇るシーディスの方が圧倒的に有利であることは間違いない。

「俺が囮になって奴の注意を引く。2人はシェヴァを連れて離れてくれ!」

「本気……?」

 数秒の沈黙をおいてアーネスカは零児にそう問う。

「ああ」

 ズシンズシンと、巨大な竜《ドラゴン》の亜人シーディスは歩を進める。

 それだけで町に被害が出る。小さな民家は踏みつぶされ、逃げまどう人々は潰れたトマトと化す。

「問答している時間はない! どうやって倒すかは逃げながら考えるさ! アーネスカ、銃を一丁貸してくれ。

 アーネスカにもこれといって打開策があるというわけではない。零児の言う通り、問答している時間は無駄というものだ。

 アーネスカは無言で弾丸を装填し、零児に銃を渡した。

 そして、零児はシーディスと対峙するべく走り出した。

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